ヤマボウシ‘サトミ’と‘紅富士(ベニフジ)’
前々回のブログで紅花のヤマボウシ‘紅富士(ベニフジ)’の作出の経緯を作出者の山下信夫氏に取材して紹介させていただきましたが、紅花のヤマボウシとして最初に世に出たのは‘サトミ’という品種です。
‘紅富士(ベニフジ)’を品種登録する際には、‘サトミ’を基準としてその差異を示して、明瞭な違いが認められたことによって登録の許可が出たと伺いました。
‘サトミ’は、岩手県の岩手山山中で当時盛岡の園芸試験場に所属していたリンドウの育種家・吉池貞藏氏が今から30年以上前に見い出したものだそうです。
その紅花のヤマボウシの存在の知らせを受けた川口市安行のしばみち本店の柴道昭氏が、原木(Mother tree)から穂木を採取して接ぎ木繁殖したのが、‘サトミ’の始まりです。
‘サトミ’の原木は、その後地元の農協の敷地内に移植されたとのことですが、現在の状況については未確認です。
品種名は、‘サトミ’を普及させようとしていたちょうどその頃、しばみち本店社長にお孫さんが生まれて、その孫娘さんの名前をとって‘サトミ’(最初はミス・サトミと呼んでいた)としたそうです。(柴道昭氏談)
‘サトミ’は当初日本よりもヨーロッパで人気が高まったようで、オランダの園芸試験場に渡って、そこで魅力が紹介されてヨーロッパ全土に広がっていったそうです。
日本で騒がれるようになったのはそれよりもずっと後になってからです。
ヨーロッパは緯度が高く、気候的に原産地の岩手と近いこともあって赤の発色がよく、しかも丸弁で大きい花(総苞片)が見事だということで、人気が高まっていったようです。
前回のヤマボウシのブログでも書きましたが、東北地方など北方に自生するヤマボウシの花(総苞片)は丸弁で幅が広く、関東より南方(西の地方)に自生するヤマボウシの花(総苞片)は剣弁で幅が狭くなっています。
岩手原産の‘サトミ’は丸弁で、静岡由来の‘紅富士(ベニフジ)’が剣弁なのは、端的にその特徴が出ています。
・左が‘サトミ’で右が‘紅富士(ベニフジ)’
紅色をよく出すには、どちらの品種もよく日を当てることがポイントで、詳細なメカニズムは分かりませんが、紫外線に反応して赤く発色するようです。
北方や標高の高い寒い地域では‘サトミ’の発色がよく、南方や平野部などの暖かい地域では‘紅富士(ベニフジ)’の発色がよいような気がします。
‘サトミ’が発見された岩手県一帯や‘紅富士(ベニフジ)’の作出拠点の富士山一帯は、元々花(総苞片)が淡紅色になる「ベニヤマボウシ」(f.rosea)の自生が多くあるところです。
‘サトミ’はそんな中から特に紅の濃い個体変異種として自然界から選抜された品種です。
そして‘紅富士(ベニフジ)’は、自生するベニヤマボウシから種を採って播いて、発芽した苗からの実生選抜品種です。
どちらも日本が誇るべきヤマボウシの魅力的な品種です。
たくさんの人達に魅力を知っていただき、もっともっと楽しんでいただきたいものです。
※関連ブログ:
「ヤマボウシ‘紅富士(ベニフジ)’」(こちら)
「ヤマボウシ」(こちら)